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「脳がどのように見ることを学ぶか」パワン・シンハ

SPEAKER:パワン・シンハ


パワン・シンハは人間の脳の視覚システムがどのように発達するかという画期的な研究内容を説明します。シンハ氏と同氏のチームは生まれつき目の見えない子どもたちに、無料で視力視覚回復の治療を施し、どのように視覚データを脳が解釈するのか研究しています。この研究は神経科学、技術分野、自閉症に関する洞察も含まれています。


18:23


日本語字幕
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TED2010

全文
もしあなたがインドで生まれつき目の見えない子どもだったら 少なくとも二つの大きな悪いニュースに 立ち向かわなければなりません 最初の悪いニュースは 視力回復の手術の機会は ほとんどないか、全くないということです なぜなら、インドのほとんどの 視力回復プログラムは 成人が対象となっており、 本当に本当に少ない病院しか 子どもの手術ができる施設がありません 実際のところ、もし治療を受けることができても おそらくは、医者の資格をもたない人に 治療を施される可能性は高いです ラジャサンのケースのようにです この女の子は3歳の孤児で 白内障です 世話人がこの子をつれて 村の祈祷師のところへ行くと この祈祷師は、世話人に 病院へ連れていくことを勧めず この子の腹部を焼くことにしました 真っ赤になるまで熱した鉄でです 彼女の中にいる悪魔を追い払うためです あなたに届けられる 二つ目の悪いニュースは 神経科学医から届きます それは、あなたが4〜5歳以上なら たとえ目の治療を受けたとしても あなたの脳がどのように物を見るかを学ぶチャンスは 本当に少ないということです 繰り返しますが、チャンスがあっても、ないに等しいのです

この二つのニュースを聞いて 私はとても悲しかった 科学的にも、 個人的にもです では、まず個人的な理由からお伝えしようと思います かっこいい話ではないですが、正直にお伝えします こちらは、私の息子、ダリウスです 新米の父親としては ちょっと異質な気持ちをもっています 赤ちゃんがどれほど繊細なのか 赤ちゃんに対する義務は何か 赤ちゃんへの愛情が どれほどなのかといったことです 私はダリウスの治療のためなら 全力を尽くします 私は、ダリウスのように 治療を受けられない子どもが 他にもいるというのを聞くと それはいけないと本能的に思うのです これは個人的な理由です

つぎに、科学的な理由です 臨界期に関する 神経科学の見解では 4歳か5歳以上になると、 脳は学ぶ能力を失うというのです ただ、私はあまりこの考えに納得いきません なぜかというと、この考えは 十分に検証されていないからです この考えは、デビッド・ヒューベルと トルステン・ウィーゼルの研究によるものです この二人はハーバード大学に在籍していました 視覚生理学の研究において、 1981年にノーベル賞を受賞しました 彼らの研究は本当に素晴らしいものでしたが 彼らの研究には 人間に応用するのが 時期尚早な部分もあったと思います さまざまな欠乏症をもった 子猫などを使って 60年代という昔に行われた この研究の成果が 現代の人間の子どもたちに適用されているのです

そのため、私は二つのことをしなくてはならないと思っています 一つめは、 現在治療を受けられない子どもたちに 治療を施すことです これは人道的な使命です そして、科学的な使命は 視覚の可塑性の限界を 試すことです お察しのとおり、この二つの使命は お互いを完全にうまく組み合わせることができます 実際、この二つの使命は一つが欠ければ、不可能となります この二つの使命を 実行するために 数年前に、プロジェクト・プラカシュを立ち上げました プラカシュは、多くの人が知っているように サンスクリットで光を意味するものです このプロジェクトは、 多くの子どもたちの命に光をもたらすとともに 神経科学の深い謎を 解明するという可能性も 秘めています ロゴは、とてもアイルランド的にも見えますが 実は インドではディヤと呼ばれる陶製のランプのシンボルに由来します プラカシュの目的は 3つあります 手を差し伸べてケアが必要な子どもたちを見つけることと 治療と、その後の研究です では短いビデオをこれからお見せします このビデオは、最初の2つの目的を説明するものです

これは支援センターです ある盲学校で行われました

(テキスト:ほとんどの子どもたちは永久に目が見えないか、ほとんど見えません)

ここは盲学校なので 多くの子どもたちは永久に目が見えない状態です 小眼球症の場合、 眼球が奇形となり 永久に変わらないため 治療ができません これは、小眼球症の極端な例で 眼球陥入といいます しかし、時々 わずかながら視力を持つ子どもたちに出会うことがあります そしてこれはとても良いサインなのです このサインは治療ができるかもしれないという状態なのです そのため、検査が終わった後で、このような状態の子どもたちを病院に連れてきます 私たちと一緒に問題に取り組むデリーの病院です シュロフ・チェリティ・アイ・ホスピタルといいます ここはとても施設が整った病院です この小児眼科センターは ロナルド・マクドナルドの基金の協力もあって 設立されました ハンバーガーを食べのも役に立ちますね

(テキスト:このような検査をすることで 多くの子どもたちの目の健康を改善できますし、 プロジェクト・パラケシュに参加できる子を見つけられます)

この子どもの眼球を良く見てみると この子がなぜ失明したのかがわかります 瞳孔の真ん中に、白い部分が見えますか これは先天性白内障です レンズの混濁です 私たちの眼の中にあるレンズは透明です しかし、この子のレンズは濁ってしまったのです そのため、この子は目が見えないのです で、この子に治療を施しました。この子の目の写真が見えると思います これが混濁したレンズを持つ目の写真です この混濁したレンズを取り除き アクリルのレンズを挿入しました で、これが治療後の同じ子どもの目です 手術後3週間です 右目が開いています

(拍手)

ありがとうございます

そして、このビデオクリップを見て頂いただけでも、 治療が可能だということをおわかり頂けたと思います そして、私たちは、これまでに 200人の子どもたちに治療を施しました これからも続けていきます 治療後にこの子どもの視力は 大きく改善しました この話は 数年間ほとんど視力がなかった人が 視力を回復した場合にも当てはまります 数年前にある女性のことを論文にしたことがあります この写真の右側にいるのがその女性S.R.D.です 彼女は高齢ですが、視力を取り戻したのです そして彼女の視力は、彼女の年齢を考えるととてもすばらしく良いのです 悲しいニュースを付け加えなくてはならないのですが、 彼女は2年前に バスの交通事故で亡くなりました しかし、彼女のケースは本当に感激的でした あまり知られてはいませんが、とても勇気づけられます こういった成果が表れると ご想像のとおり、科学誌や一般紙でも かなり混乱がみられました これがネーチャーに掲載された記事です このケースの詳細が掲載されました 他にはタイム誌があります そのため、私たちは確信しました 視力の回復は実行可能だと たとえ長い間視力がほとんどなかったとしてもです

当然、次にこんな疑問をもたれるでしょう 回復の過程はどうだったのでしょうか 私たちの研究では 光を感じられる子どもを見つけて この子を治療します 強調しておきますが この治療は完全に無償です 報酬などは全くありません さらに多くの子どもに治療を施し、研究も進めます 治療が必要な子どもは全て治療します 治療が終わったら、ほとんど毎週 その子どもに 一連の視力テストをします このテストは子どもたちの視覚的な能力が どのように発達したかを確認するためにです 私たちはできるだけこのテストを続けていきます この一連の発達を見れば 今までみたことのない そしてとても貴重な情報が手に入るのです どうやって、視力の基盤が できていくかという情報です 幼少期の視力発達能力と 大人になってからの視力発達の能力は どのような因果関係があるのでしょうか

この一般的手法で さまざまな角度から視力の発達を研究してきましたが 特に1つ注目していただきたいことがあります それは物のイメージ分析能力です 左側に見えるようなどんなイメージも 実際のイメージであれ、合成されたイメージであれ 真ん中に見えるような 小さな領域で構成されています 違う色や違う光度の領域です 脳は、複雑な処理をして こういった領域からなるサブセットを 組み合わせたり、統合したりすることで もっと意味のあるものや 物と認識できるものを形成して 右側に示すようなものを作ります でも、どうやって統合しているかは誰にも分かりません そしてこれがプロジェクト・パラカシュで考えている問題なのです

こんな事がありました 視力回復のすぐ後にあったことです この人は数週間前に視力を回復しました MITの院生であるイーサン・マイヤーズが 彼と一緒に実験をしました 彼の視覚と運動の協応には大きな問題がありました しかし、彼のこの問題に取り組むには どの領域を取り扱えばいいのか何となくつかめています 彼に実世界のイメージを見せたり 彼に限らず同じような状態の人に実世界のイメージを見せても 彼らはほとんどの物を認識することができないのです 世界が細かく寸断されすぎているからです 色や光度が異なる領域の組み合わせや、寄せ集めとして 構成されているように見えます この緑色の線がそれを示しています 彼らに、どんな物か分からなくてもいいから、 どこに物があるか指し示してごらんというと こういった領域を指します こういった領域の複雑な組み合わせとして この世界を見ているのです ボールの影でさえも、 一つの物として見えるのです おもしろいことに 数か月経つと、 こんなことが起こります

医師:これはいくつに見える?

患者:2つです

医師:これはどんな形をしていますか

患者:これは.. これは円で これは 四角です

このような劇的な変化が見られるのです ここで疑問が浮かびます どうやってこの変化が起きたのでしょうか これはとても重要な質問です そしてさらに素晴らしいのは、 答えが非常に簡単なことです 答えは動きの中にあります そしてこれが次のクリップでお見せしたいものでもあります

医師:どんな形が見える?

患者:よくわかりません

医師:今ではどう?

患者:三角です

医師:ここには物が何個ありますか? 今は何個にありますか

患者:二つ

医師:これは何ですか?

患者:四角と円が見えます

こういった事例を何度も目にします 世界を分析するために 視覚のシステムが必要とするのは 動きの情報なのです このことから導くことのできる推測は 数々の実験もしてわかったことですが 運動に関する情報の分析、もしくは 動きの分析は 他の複雑な視覚分析をするうえで、 重要な基盤になるということです これによって、視覚情報を統合でき 最終的には、認識ができるようになります

このシンプルなアイデアは、広範囲に適用できる可能性をもっています では、簡単に二つの話をします 一つは、エンジニアの領域の話しで もうひとつは臨床的な領域の話です エンジニアの観点からすると こんな疑問が浮かばないでしょうか 人間の視覚システムにとって、動きが 非常に重要だと分かったのだから、これを利用して 機械を使用した視覚システムを開発できないだろうか? つまり、自分で学習する機械であって、人間が プログラムする必要のない機械です そして、それが今私たちが取り組んでいることなのです

私はMITに在籍していますが、MITでは 基礎知識を全て実用化することが求められます われわれは、ディランという コンピューターシステムを開発中です 私たちは高い目標を持っています それは、人間の子どもが受容するような 視覚インプットを入力し 視覚インプットに含まれる物を 自動的に認識するのです ディランの中身のことは気にしないで下さい ディランをテストする方法だけ お話しします ディランをテストするときには プロジェクト・プラカシュで赤ちゃんや子供に与えるものと 同じようなインプットを与えます しかし、ずいぶんと長い間、私たちはどこから このビデオインプットを得たらよいかわかりませんでした 私はこう思いました ダリウスに 小さなカメラを持たせて そしてこのインプットをディランに入力できないかと で、私たちは実行に移しました (笑い) 私は妻と長い間話し合いました (笑い) 実際、パム、もしこれを見ているなら どうか許して下さい

カメラの光学系を改造して 赤ちゃんの視力を再現しました ご存知の方もいらっしゃると思いますが 赤ちゃんはほとんど目の見えない状態で産まれます 私たちの視力は20/20ですが 赤ちゃんの視力は20/800くらいです そのため、赤ちゃんは世界を とてもとてもぼやけた状態で見ているのです 小さなカメラで見るとこのようになります

(笑い) (拍手)

幸いにも、撮影したときの 音声はありません すばらしいのは このように低画質のインプットでも 赤ちゃんは非常に早く インプットから意味を発見できるのです さらに、2〜3日すると 赤ちゃんは父親や 母親に注意を向けるようになります どうやっているのか?ディランに同じことをさせたいのです 動きを利用するアイデアを使えば この程度の映像情報でも ディランは同じことができるようになるのです 6〜7分間のビデオで ディランは顔など 情報のパターンを抽出しはじめます これは、動きを利用することが いかに有効であるか実証しています

臨床的な知見は、自閉症の領域から得られます 視覚情報の統合を 自閉症と関連付けている研究者もいます これを知ったとき、私たちは思いました 視覚情報をうまく統合できないのは 自閉症の場合に、動きに関する情報をうまく 処理できないことの原因を示しているのではないかと なぜなら、この仮説が正しければ 自閉症にさまざまな表現型がある要因について 私たちの見解は 大きく変わることになるからです

これからご覧いただくビデオは 神経学的に正常な子と、自閉症の子が ポンで遊んでいるときの映像です ポンで遊んでいる子の視線を、追跡しています 赤い部分が視線の軌跡です これは神経学的に正常な子のものです。よく見ると この子は動きに関する情報から 手掛かりを得て どこのボールがいくのか予測しているのです ボールがある場所に行く前に この子はすでにその場所を見ています この子と自閉症の子が同じゲームをするのを 比べてみましょう 予測する代わりに この子はいつもボールがどこにあったかを見ています 自閉症の場合には 動きに関する情報を処理する能力に 大きな障害があるようです 今この研究を進めていますが 今後より多くの情報が 得られることを望んでいます

これからのことを考えますと、もしこのディスクが これまでに治療した全ての 子どもたちの数を表すとしたら この課題の規模はこれぐらいです この赤い点は治療を受けていない子どもたちを表しています とてもとても多くの子どもたちが治療を必要としています ですから、このプロジェクトの範囲を広げるために ある計画をしています プラカシュ・センター・フォー・チルドレンです これは小児科に特化する病院で 治療を受ける子どもたちのための学校で そして、最先端の研究施設でもあります プラカシュ・センターはヘルスケアと 教育と研究を統合し それぞれの部門の合計よりも さらにすばらしい全体の結果を本当の意味で作り上げるものです

まとめると、プラカシュは、創立して5年となりますが 多くの部門で効果がありました 基本的な神経科学や 脳の可塑性や学習力、 自閉症のような臨床学的に適応できる分野もです 自律的な視覚システムの開発 大学生や大学院生の教育 そして最も重要なのは 目の見えない子どもが減ったことです 私も私の生徒も とても素晴らしい経験をしています なぜなら、とても興味深い研究をしながら 同時に 一緒に取り組む子どもたちを助けることができるからです

ありがとうございました

(拍手)